生きづらさを克服し、望む明日を掴む

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短編小説 恋を教えて 1

 「桜ちゃんって彼氏いるの?」

昔から、その言葉を男性からかけられるのが苦手で仕方がなかった。

現在、大学一年の英語サークルの新歓コンパで、そんな恐れていた言葉を投げかけられ、新藤桜は一瞬固まってしまった。

答えはいない。が正解なのだが、大抵の場合その後もその話題が長く続いてしまうので苦手だった。

なので今回は、

 「私はいないですよ。江本さんは誰か彼女さんとかいらっしゃるんですか。」

立て続けに相手に振ってみることにした。

これで追求を逃れることができるかは分からないが、桜なりに工夫した結果だ。

 「俺、俺なんか彼女なんかいるわけないよ。もう2年はいないね。」

江本勝は、彼女がいないと言うことをなんだか尊大な態度で答えた。

だが、江本の方は自分にも話題が振られたことに気をよくしたようで、桜の意図とは逆に、この話題を広げようとし始めた。

 「でも桜ちゃんなんて凄く可愛いし、正直なところめっちゃモテるでしょ。」

江本の方は、桜の容姿を純粋に褒め、きっとモテるだろうとただ悪気なく言っているだけだが、新藤桜にとっては己がモテるかモテないかなどと言うことは特に重要なことではないので全く響かない。

新藤桜は今まで恋をしたことがない。と言うより、恋をしたことがないまま、18歳を迎え、令和を迎えたと言ったところだろうか。

恋愛にまったく興味がないとまでは言わない、友人に誘われれば恋愛映画を観に行くこともあるし、観て感動することもないわけではない。

しかし、いざ自分に置き換えて考えてみると、なぜだろう。いや、ないない。と言うような気持ちになってしまうのだった。

加えて下ネタのようなものも苦手なので、女性の友人同士での生々しい会話など全くついていけず困っていた。

桜は自分の容姿に対してもあまり執着がないのだが、そこそこに告白された経験なのがあるので、ルックスは中程度より上なのだろうと客観的に判断している。

普通に考えれば、それは恋などをする上でも就活を勝ち抜く上でもプラスになるのだろうが、彼女にとってはかえって重荷だった。

そして、モテているのに誰とも付き合わず、恋愛話を嫌うような態度は正直言って女子からは好かれにくい。

それによって、より男子が寄ってくると言う悪循環を繰り返していた。

 「どうなんですかね。人並みにはモテると思いますけど。」

いつもなら適当に謙遜して終わるところだが、飲み会と言う場で未成年で飲酒していないながらも雰囲気酔いしているようなところがあった桜は、正直に返すことにした。

すると江本は意表を突かれたようで、吹き出して笑った。

 「おおなかなか言いますね~ 謙遜する人が多いところを」

 「だって、思ってもない謙遜なんてしても誰も得しないじゃないですか。」

 「ぶっちゃけるね。お酒も入ってないのに。」

正直すぎて引かれただろうか。

桜はそれでも別に構わないと思った。変な女だと思われて相手にされないぐらいがちょうどいい。妙に興味を持たれて恋愛的な意味で好きにでもなられたらその方が面倒だ。

 「俺、結構桜ちゃんみたいな子タイプだなー。さっぱりしてるって言うか。

深夜に会いに来てみたいなこと言いそうにない感じというか。」

どうやら完全に逆効果だったらしい。

頭を抱えたくなるが、飲み会が終わるまで後一時間もあるし、早めに帰るとしても丁度いい時間の電車もない。

もういっそ、江本との会話を適当に盛り上げて、お互い楽しい気持ちになって帰ることを目指そう。

 「ホントですか。私みたいなのと付き合っても面白みないですよー

女の子らしいワガママとかも言わないし、お店とかも自分で調べちゃう方だから頼られがいもないし」

 「そういうのが良いんだよー。自立型女子というか、男に頼らないで立ってるその感じに憧れちゃうもん」

江本はこの英語サークルの三年生で、サークルの中でも割とリーダー的な立ち位置にいる男子だ。

そこから考えると、頼られたい方なのかと思うが、実際はそうでもないらしい。

 「ちょっと、新入生口説くのやめてくださいよ先輩!」

桜にとっては丁度良いタイミングで助け舟が入った。

声をかけてきたのは二年生の女子だ。名前は自己紹介の時、木之本奈々と名乗っていたっけ。

茶髪のショートヘアで流行りの髪型だ。服装を見ても流行に敏感そうで、長い黒髪を伸ばしっ放しにして縛っているだけの桜とはだいぶ違う。

 「木之本か。別に口説いてるわけじゃねーって。1女(いちじょ)が可愛く見えるのはこれはもうしょうがないだろ。」

 「そりゃ1女が可愛いのはしょうがないかもしれないけど、そういう問題じゃないでしょう。

彼女みるからに遊んでそうなタイプでもないし、そんな感じで軽口叩かれたらサークルに入ってくれなくなるでしょ。」

 大学一年生の女子を指して、1女(いちじょ)というらしい。1女は大学のあらゆる場所で華のような存在だ。そして2女、3女になるにつれて扱いはどんどん雑になっていくらしい、というのが桜が大学で得た知識だ。

 「木之本さんありがとうございます。」

助かったので、素直に礼を言うことにした。

 「っておいおい、それじゃマジで俺が悪もんみたいじゃんか。」

江本が慌て出すと、奈々が

 「その通りじゃないですか」

と冷たく切り捨てた。

桜がなんとなく奈々の方をみて会釈すると、奈々の方はこっちを見て笑いかけてくれた。

なんだか、良い人のオーラがすごい。

 「困ってる時はいつでも頼ってよ。3年の男子とか特に調子こいてる人多いから。」

 「全力で頼ります。」

 

 

 

 

 

家に帰ると、ラインの未読通知があり、開くと江本からだった。

それに、見慣れないグループラインにも招待されている。