生きづらさを克服し、望む明日を掴む

音楽や詩、小説、気持ちを伝えることで誰かの力になることを目指すブログ

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SF短編小説 まだ未完成な空(仮) 1

薄暗い闇の中、僕は病室で目を覚ました。

体が動かない。全身縛り付けられたような感覚で身動きが取れない。これが金縛りというやつだろうか。見えないのに、まるで鎖で繋がれているかのようで息苦しかった。

 そうこうしている間にだんだんと記憶を取り戻していく。そうだ、自分は先ほどまで冷たい目をした看護士に血を抜き取られ、いつの間にか意識を失っていたのだ。古いテレビをザッピングするような感覚で、少しづつ記憶を取り戻していく。そう、自分はいつもと同じように自室で過ごしていた。それから、自分の手で携帯を操作し、救急車を呼んだのだったろうか。いや、家族が呼んだのかもしれない。記憶が定かでないところに突入すると、自分の体がびくんと動き、体を動かさないではいられなくなった。まるで何かから逃れようとするかのように、暴れまわる体。堪らずに僕はナースコールを押した。

 「どうされましたか。」

 「苦しいんです。」

 しばらくもがいていると、部屋の明かりがついてパッと明るくなる。ナースが、ベットでもがく僕に話しかけてきた。

 「大丈夫ですよ。お薬を飲みましょう。」

ナースは髪は染めずに白髪のままにした壮年の男性だった。背は低く、不思議と清潔感や親しみやすさを感じた。男性に促されて、僕は薬を飲み込み、安心して眠りに落ちた。

 

 

 目が覚めるといつもの自分の部屋にいた。見慣れた天井の星模様を見て安心する。時刻を確認すると、まだ午前5時を過ぎたところだった。高校へ行く支度をするまではまだだいぶ時間がある。俺は大きく伸びをした。不思議な不思議な夢を見た。何かの隠喩なのだろうか、初めはホラー映画のように思ったけれど、最後は安心させるような終わり方だったのがなんだか腑に落ちなかった。

 今年2035年で、高校二年生になる天音啓斗はベッドから飛び降りて、着替えを始めた。時間に余裕があっても、啓斗はせっかちなタイプなので支度など必要な用意は何事も早めに行っておくタイプだ。

そしてあまりに暇なのでグループチャットに一言メッセージを送っておいた。おい、誰か起きてるやついる~? 暇なやつ早めに学校来て話し相手になれよ。

 制服を着た状態でベッドに横になり、携帯端末に呼びかけて自分専用のAIを呼び出す。ナナとAIに声を掛けると、携帯端末から女性のホログラムが出てきて啓斗に向かって一礼をした。ホログラムの女性は大きくて丸い愛らしい瞳にショートカットの茶髪で快活さと清純さを兼ね備え、メイド服を身にまとっていた。AIにもそれぞれ性格があるが、ナナは特に礼儀正しいタイプで、呼び出されると必ずお辞儀をする。

「おはようございます。啓斗様」

ナナの声は人気アニメ声優が担当していて、透き通った水のようにクリアな響きだ。啓斗は毎朝ナナの声には癒されてすごしている。

「おはよう、ナナ。今日の予定は?」

「午前6時半から啓斗様の所属するvスポーツ部の朝練があります。その後は通常どおり6時限目まで授業を行なった後、新宮様と榎本様と瀬名様とVRライブ観賞会の予定ですね。」

「変な夢から始まったけど今日は最高の日だな。ライブ前からめっちゃ楽しみだったし。」

「そうですね。このバンドのチケットを取るのには私も苦労しました。でも、啓斗様の為にない知恵を絞って多方面に掛け合って頑張って手に入れたチケットです。」

 いつになく、ナナの声には力が入っている。AIといっても、もう5年以上もの付き合いになるナナは啓斗にとっては家族同然の存在だった。

「ない知恵とかお前が言うか~普通。俺に対して逆に失礼だっての。」

「すみません。私もまだまだ空気を読むことについては勉強が足りていなくて。」

 啓斗がそう言うと、ナナは申し訳なさそうに俯いた。サラサラとした前髪が目にかかり少し煩そうだ。

「別に責める意味で言っているわけじゃないよ。なんでも知ってるって言ってもいいぐらいのナナがそこまで謙遜するのがおかしくてさ。もっと自信持っていいよナナは。俺の相棒なんだから。」

「相棒だなんてそんな! 私のような汎用型AIには勿体無いお言葉です。世の中にはもっと特殊分野に特化したAIもいるのに。私ではまだまだ啓斗様の相棒としては力不足ですよ。」

 言葉を尽くしてフォローした啓斗に対し、ナナは顔を赤らめて謙遜を続けた。AIであるナナにとっても、啓斗は家族以上の存在で、大切にしている気持ちは同じだった。でも、啓斗と同世代の年齢設定で啓斗と一緒に育ってきてAIとしても機能を向上してきたナナには、啓斗のパートナーとしてもっと上を目指せると言う気持ちもあり、素直になれない面があるのだった。しかし、そんな気持ちとは裏腹に、啓斗は渋い顔をしていた。

「素直に褒めてるだけなんだから、素直に受け止めればいいのに。ほんっと素直じゃないAIだよなーナナは。」

「すみません。いつも素直じゃなくて」

「いいよ、いいよ。ところでさっきのチャットの連絡来た? ナナと喋ってる間に音がなった気がしたけど。」

「クラスメイト様からのメッセージが来ていますよ! 読み上げますか?」

「読み上げて」

「堂上優様からのメッセージが一件です。起きとるよ~ 啓ちゃん無駄に早起きだな。俺も朝練あるし、早め行くわ~ 学校で話そ。以上です。」

 AIなので当たり前だが、ナナはつっかえることもなく流れるようにメッセージを読み上げた。

「ナナ、ありがとう。じゃあ俺もう出かけることにするわ。」

「それでは、私は少しの間おやすみをいただきます。」

そう言った後、ナナはふっと姿を消した。