生きづらさを克服し、望む明日を掴む

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SF短編小説 まだ未完成な空(仮 2

啓斗は最近同年代の間で流行っている高機能バッグの前ポケットに携帯端末をしまった。サプリメントで軽く朝食を済ませる。家族はまだ寝ている時間なので、そっと、自分の部屋の戸を開け、廊下を通って外に出た。

 外気が気持ちがいい。一昔前までは排気ガスやPM2.5や、水質の悪い河川など汚染されていた空気も最近は、テクノロジーの力で蘇りつつある。外の空気に触れて散歩するのが啓斗は何よりも好きだった。VR世界に籠ってスポーツすることも日課ではあるけれど、同時に啓斗は世界を愛していた。二段飛ばしでマンションの階段を駆け下りる。そして広いエントランスを駆け抜けた。啓斗は学校の近く、徒歩10分程度のマンションに住んでいるので、学校まではあっという間だ。朝早いのもあって、啓斗が閑静な住宅街の人通りも少ない。

 校門に着くと顔認証システムが作動してすぐに門が開いた。時刻を確認すると午前五時半。結局一時間も早くに着いてしまった。下駄箱を確認すると、メッセージを送ってきていた堂上はすでに到着しているようだった。堂上は、啓斗からするといつも風変わりな服を着ている自由人という感じで、修銘高校のファッションリーダーでもあり、言動が奇妙だったりと面白い点が多くて、割と気に入っている友人の一人である。啓斗は堂上と話すのが楽しみにしながら教室に入った。

「啓ちゃん、はよっすー。」

「堂上もおはよ!」

 入るとすぐに、堂上優が挨拶してきた。インターネットで仕入れてくるのだろうか、優の朝の挨拶は一々あまり聞いたことがないような古い言い回しが多い。優の他にも、朝練があるメンバーが数人で話したりしていた。

「おー啓ちゃんのそのバッグ! ハイカラだね~。」

「最近買ったんだよ。にしても、堂上のバッグは使いづらそうだよな。また、リバイバルブームってやつ?」

 優の使っているバッグは、テカテカしていてチャックも一つしかなく、あまり使い心地が良さそうには見えない。

「ボクは決してブームに乗ってるとか言うわけではないんだよ! このバックを使うのはポリシーさ。このテカテカ感がたまらんのよ。」

 優はバッグを手に力説してきた。なんだか子犬が訴えかけてくるようなウルウルした目でこちらを見ている。バッグは大きくて、優の細い腕には不釣り合いに見えた。

「なんつーか、お前からは男ってのをあんまり感じないよな。」

 サッカー部で鍛えられてはいるだろうが、華奢な体に、くっきりした垂れ目がギリギリ見えるくらいの長さの前髪の感じは女性的だった。啓斗が通っている修銘学院高等学校は私服登校なので、格好もユニセックスのもので個性的だ。

 そんな啓斗の何気ない言葉に、優は笑って答える。

「それはボク自身も思ってるよー 正直、自分自身も性別あんまり気にしたことないし。」

「授業で習ったLGBTQとかってやつなのか?」

「啓斗はめちゃくちゃストレートにそう言うこと聞くよね。まあそう言うとこ嫌いじゃないけど。」

「はぐらかすのかよ。」

「そう言うわけじゃないけど、啓斗とはもうちょい仲良くなってからそう言う話もしてみたいかな。」

 いつも、踏み込んでいい距離感、ラインを上手く測ることができないのが啓斗の悩みだった。堂上のように相手と上手く線を引いて、コミュニケーションが図れるタイプならばいいが、そうでない相手の場合、相手は啓斗を嫌がって離れていってしまう。啓斗にとって、そう言う意味合いで、堂上は高校一年の頃から今現在の二年の二学期初日に至るまで、信用の置ける相手だった。

「ごめん、踏み込み過ぎたよな。」

「いいんだよ~ 啓ちゃんのそういう相手を知ろうってする気持ちってめっちゃ今の時代貴重だしさ。ボク的には結構嬉しいよ。」

 堂上は、そういって柔らかく笑った。嘘がない笑顔というのはこういうのを言うのだろう。見ていてなんだか癒される感じがする。

「それより、急ごう。朝練の時間近づいてきてるし」

「うわ、つい話し込んじゃったな。」

 二人はそれぞれの部室に向かうため、廊下に出た。すると、隣の教室から新宮ののみと榎下蓮の二人がこちらに向かって歩いてきた。ののみは小学校から、蓮とは中学からの付き合いで啓斗にとっては腐れ縁的関係だ。また、三人で同じvスポーツ部に所属していて、クラスこそ違うが、高校でもよくつるんで過ごしている。

「あ~ またいつもの珍しい組み合わせだ。」

 ののみが啓斗と優を見てつぶやいた。それを聞いて啓斗と優は顔を見合わせて苦笑する。すると、そんな様子を見ていた蓮が一言ツッコミを入れた。

「いつもの珍しいって日本語変だろ。結局珍しいんだかそうじゃないんだかわけわからん。」

 蓮はこんな風にツッコミを入れる時もいつも仏頂面だ。顔は学校1整っていると言われているぐらいのアイドル顔なので、その容赦のなさとのギャップはかなりある。啓斗は一般的なルックスの自分と蓮を比べてしまうことが多かったが、蓮がそのルックスの良さゆえに色々な苦労をしていることも知っているので複雑な気持ちを持っていた。

「いやだって、空気の読めなさ日本一みたいな啓斗と、めちゃくちゃ繊細そうな優くんの組み合わせは、そうとしか言いようがないでしょ。本当に仲良いのが不思議だよ。」

 ののみが首を傾げながら言う。ののみは言いたいことをはっきり口に出して言うタイプだが、根に優しさがあるので、クラスの中では相談役的な立ち位置にいるらしい。それにののみの言っていることも尤もで、啓斗自身もなぜ自分が優と仲が良いのか不思議に思っていた。考え込んでしまう啓斗に対し、優の方は逆にののみの発言で大笑いしていた。

「本当に、ボクも不思議だよ。でも、なんか啓ちゃんはあったかいんだよな~ だから好きなんだと思うよ。うん。」

「なるほどね。それはなんか分かるわ。」 

それを聞いたののみは、合点がいったと言うような様子だった。蓮も頷いているが、啓斗本人だけはよく分かっていない様子だった。

「と言うか、部活始まるし、さっさと行くぞ。」

 蓮の一言をきっかけに、啓斗は優と別れ、三人で部室へと向かった。