生きづらさを克服し、望む明日を掴む

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SF短編小説 まだ未完成な空(仮 3

 vスポーツは5対5で行う点取り型のゲームである。プレイヤーは互いに障害物のあるフィールドで勝負を行う。ルールは単純で、手にしたボールをゴールへと叩き込む事で1得点となり、10点先に先取した方が勝ちとなる。だが、フィールドの設定については、敵陣は敵陣で、味方陣営は味方陣営でそれぞれに勝てるように罠をあらかじめ仕掛けておいたり、複雑な陣形にしておくなど、自由度が高いものとなっているので、単なる運動神経だけにとどまらず知力が試されるものになっている。

 修銘学院高校のvスポーツ部は、体育館を練習場として行われている。VRを駆使したvスポーツ専用の体育館で、そのおかげもあってか、修銘学院のvスポーツ部は都内でもトップクラスの成績を残している花形である。

「みんな準備は整ったか? 朝練始めるぞ。」

 啓斗達より一学年上の先輩、浅見香が全体に声をかけ、練習が始まる。皆すでにVRゴーグルをつけVR空間にダイブしている。当然ながら、VR空間でつながっていない人間が外から見ると、滑稽な様子にはなっているだろう。だがしかし、VR空間の中ではすでに激しい凌ぎ合いが行われていた。

 戦いは仮想敵陣営と味方陣営に分かれて行われている。仮想敵陣営は来月に予定されている大会の初戦で当たることが決定している苑京館高校の過去のデータを利用した陣形だ。啓斗、蓮、ののみの三人は大会のメインメンバーに選ばれていて、この予想試合では皆、味方陣営で戦っている。また、三人とも敵陣営に張り巡らされた罠に関しては全く知らず、把握しているのはVR空間にある練習場の外で試合の様子をモニタリングしている一部のコーチ陣および、三年生だけだ。

 そして、鍵を握るボール、vスポーツにおいてはヴェパルと呼ばれるボールを今手にしているのは啓斗だった。啓斗は現在、敵陣に攻め込んでおり、仲間と連携しゴールを奪えるチャンスを狙っていた。フィールドは迷路のように入り組んでいるので、直接は見えないが、試合中に使うことが許されている位置を把握する機能から、斜め前の比較的ゴールに近い方向にののみがいることが分かっていた。

 パスを出そうと構えた瞬間、迷路のように入り組んだフィールドの奥から、敵陣営で守備をしている三年生がすっと姿を現した。vスポーツでは、こう言った場合にボールを奪う方法が大きく分けて三種類ある。一つは、直接的に相手にタックルしてボールを奪い取る方法、そして二つめは、条件付きで使うことが許されている飛び道具を用い、相手をVR内で麻痺状態にしてボールを奪う方法、そして三つ目は、自分のチーム独自で編み出し、公式がお墨付きを得た、妨害の呪文、印を結ぶなどして奪い取る方法だ。

 三年生は凄まじいスピードで印を結ぼうとしていた。啓斗も当然対応しようとするが、距離感や時間を考えるとどうにも間に合いそうにない。その時だった、印を結ぼうとしていた三年生が左側からの強烈な衝撃によって倒れる。そこで姿を現したのは蓮だった。この場合、蓮に三年生を抑えてもらい、自分が先に進んで得点を取るのが良い流れだろう。啓斗と蓮は瞬時にアイコンタクトをかわし、啓斗は再び凄まじいスピードで動きを加速した。

 すると、左斜め前にゴールの存在とレベル3の手持ちで解除可能な程度のトラップを確認できた。ゴールの前の守備は現在一人。少し離れた場所に、ののみと、啓斗に憧れてvスポーツ部に入部した瀬名英佑の二人が状況をやや離れた場所で見守っている様子だ。ののみと英佑の二人にゴールを狙うとメッセージを送る。

 作戦としては英佑がゴール前の守備の気を引き、その間にののみが素早くトラップを解除、そして啓斗がゴールまで突っ切るという流れだ。作戦成功確率は85パーセントと比較的高い数値が出ているため、試す価値ありである。全員が作戦に同意し、ゴールを奪いに行く。まず英佑が三年生の前に姿を現し、妨害の呪文を唱える様子を見せて気を引く、相手の三年生は突然姿を現した英佑に案の定うまく対応できておらず、ののみがその間にトラップ解除をして去ったことにも気づかない。

 さあ今だ、ゴールを奪え。全神経を研ぎ澄ませ、全力でゴールに向かってボールを叩き込む、この一本のためにボールの飛び方に関しても修正を加えて確実に入るよう念入りに用意してある。啓斗の放ったボールは綺麗な放物線を放ってゴールを抜けた。9対9の場面で勝敗を決めるこの一打を啓斗が決めたのだ。

 

「よくやったな! 天音。」

 あまりに試合に集中しすぎていて、VRゴーグルを取っても、現実に戻ってくるまで、啓斗は時間がかかってしまった。いつものことながら、VR空間の中では現実を忘れてしまう。それにしても、あの浅見香が優しく声をかけてくれることが驚きだった。

 vスポーツ界では、好成績を残しすぎてレジェンドとまで呼ばれている浅見先輩だが、あまり人を褒めるということはしないタイプだ。あの人が、ここまで素直に啓斗のことを褒めるということは、二年生も二学期に差し掛かり、ついに啓斗のvスポーツの実力が浅見すら認めるところになってきたというところだろう。

「あの場面、いつものお前ならプレッシャーに負けてガタガタになるから、蓮に任せていたところ、よく冷静に判断を下せたな。この分なら私も安心して今後のことを後輩に任せられそうだよ。」

 浅見先輩が微笑んでいう。正直普段いつもキリッとしていて笑顔を見せないのがこの人の常なので、そういうものなのかなと思って高校一年の頃からやってきたが、ここまで手放しに褒められるなんて幸せ以外の何物でもなかった。

「浅見先輩に褒められるなんてさすが啓斗先輩っす! やっぱり憧れるっす。」

 後輩の英佑までなぜだかテンションが上がっている様子だった。英佑は元々、啓斗のプレイに憧れてvスポーツの世界に入ってきているので、感慨深いものがあるのだろう。

「まあ、そんなに興奮するなよ英佑。俺が調子いいのなんていつものことだろ。」

 やたらはしゃいでいる英佑の頭をポンポン撫でてなだめると、英佑はなぜか唇を突き出してブー垂れた様子になる。

「先輩はいつもそーやって俺のこと子供扱いする。今回の試合、俺だって先輩のために活躍ちゃんとしたんすからね!」

 どうやら、子供扱いされているのがお気に召さないようだ。啓斗としては、英佑はいつもひっついてくる可愛い後輩という感じには思っているのだが、まだチームメイトとしては半人前の印象が強い面があった。プレイにもまだだいぶムラがある所など、イマイチまだ試合中安心してサポートを任せきれない面がある。けれど、今回の試合に関して活躍したのは間違いなかったので、素直に褒めてやることにした。

「でもお前は今回よくやってくれたよ。お前のサポートがなきゃ、あんな綺麗にゴール決められなかったしな。」

「でしょでしょ! マジで先輩に褒められるとどこまででもやれる気がしてくるわ」

 啓斗に褒められて、英佑はさらにスイッチが入ったようだった。

「私もその影で地味に活躍してるんですけどね~」

 ののみが、自分の活躍も忘れられまいと付け加える。

「とにかく、今日は私も用事があるから早めに切り上げるぞ。」

 浅見先輩が珍しく焦ったような様子で帰り支度を始めた。なんの用事だろうか、啓斗が気になって聞く前に、蓮が先に疑問を口に出していた。

「珍しいですね。なんの用事ですか。」

VRライブだよ。」

 浅見がそう言った途端、みんなが驚いたようになった。いつも勉強やスポーツに忙しい浅見がVRライブで盛り上がる様子はあまり想像がつかない。しかし、考えても見れば、今回のVRライブは規模も大きいもので集まるバンドの数も数十ある。中でも、人気のバンドthe end of chaosが参加するということで、話題を集めてもいるので、浅見が参加すること自体はまるで不思議でもなかった。

「そのライブ、俺たちも参戦するんですよ! 先輩も一緒に見ませんか?」

 啓斗がそう言うと、浅見はやっぱりと言うような表情だった。そして、その後複雑そうな顔になる。

「お前たちにはなんだか悪いが、実は知り合いのツテで関係者席で見れることになってるんだ。約束はできないが、お前たちも関係者席で見れるかどうか交渉してみようかと思うが、どうだ?」

 浅見のまさかの言葉に周りの全員が驚いた。しばらくして、ののみが恐る恐る言う。

「それが本当になったら凄く嬉しいですけど、さすがに先輩やその知り合いの方に申し訳なくないですか。」

 それを聞くと、とんでもないと言う様子で浅見が笑った。

「そんなことは全くない。知り合い自体はお前たち自体もよく知ってる奴だからな。」