生きづらさを克服し、望む明日を掴む

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短編小説 恋を教えて 3

「遠野くんはね〜 割と大人しい感じの子かな。
人畜無害っていうか。今回は多分人数合わせに呼ばれた感じだと思うけど。」
それを聞いて桜は、ホッとしたような、なんとも言えない複雑な気分になった。
人数合わせに呼ばれたというあたりがなんだか申し訳ないような気がする。
でも、大人しい雰囲気の男の子なら友達になれるかもしれないと思った。







あの日、遠野竜二は混乱の最中にあった。
遠野は自分自身のセクシャリティをゲイだと自覚していた。
実際に男性と付き合ったことはないが、中学生の時からいつも心惹かれるのは男性だった。
大学に入ってからは、英語サークルに入り、同じディベートのセクションで出会った先輩の江本勝に対し恋愛感情を抱いていた。
新歓コンパでも、本当は江本ともっと話したかったのだが、江本が一年の女子と話しているのを見て、距離を置いていた。
だが、その日遠野の感情は自身でもよくわからなくなるほどに揺れていた。
江本への恋愛感情は、自分が一年生の時から、今、二年になるまでもずっと変わらない。
なのに、その一年の女子、新藤桜に対して嫉妬の感情を抱くことがなかったのだ。
江本の周りには女性が多く、嫉妬することもあった。
だが、新藤桜に対しては、嫉妬どころか全く別の感情を抱いていた。

”一目惚れ”というのだろうか。
新藤桜を見た瞬間、胸が高鳴った。
それは今まで、どんな男性にも感じたことのない感覚で、遠野の頭は混乱した。
それは自身のセクシャリティを揺るがすほどの出来事だった。
だが、遠野はまだ、その感情が恋愛感情なのか、いわば女性アイドルに憧れるような別種の感情なのか理解できずにいた。

そんな中、なし崩し的に鎌倉観光に行くことになった遠野の心中は穏やかではなかった。
そして、時間ちょうどに待ち合わせ場所に到着した。

「あ〜、噂をすれば... 遠野くんこっちこっち」
木之本が遠野を見つけて手を振る。
その隣にいるのは他ならぬ新藤桜だった。
遠野は木之本に手を振り、合流した。
隣にいる新藤桜と一瞬目があうが、なんとなくそらしてしまう。
「この人が遠野竜二くん。」
木之本が桜に紹介をする。
「遠野竜二です。よろしく」
今度は目を合わせて、しっかり自己紹介をした。
「新藤桜です。よろしくお願いします。」
綺麗な目だな。
自己紹介する桜の様子を見て、遠野はそんな感想を持った。
小学生の頃、TVでみる女優やアイドルに憧れていた。
遠野から見ると桜はそんな存在に近いように思えた。
なんだか眩しくて、自分とは遠いところにいる人のようでやはり緊張してしまう。
「江本先輩遅刻かな」
木之本がそう呟いた。
確かにもうとっくに集合時間を過ぎているのに、江本が現れる気配はない。
「私電話かけてみるね。」
木之本はそう言い、江本に電話をかけ始めた。
すると、江本がすぐに電話に出たようで、木之本はしばらく会話を続けている。
残された桜と竜二はどちらからともなく会話を始めた。